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何も起こらない日々の日記


by nekomama44
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国宝・その美と技 国宝信貴山縁起絵巻

大阪と奈良の間にある生駒山の南端に、6世紀末に聖徳太子開山と伝えられる信貴山(しぎさん)朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)がある。平安時代、寺の発展に力を尽くしたのが命蓮(みょうれん)上人で、今昔物語などに様々な奇跡を起こしたと記されている人物だ。この命蓮にまつわる奇跡を描いたのが国宝の「信貴山縁起」だ。「源氏物語絵巻」「伴大納言絵巻」「鳥獣戯画」と共に日本四大絵巻の一つとされている。

「信貴山縁起」は全3巻、長さ36m。今から850年前の平安後期に作られたが作者は不明。絵巻は右から左に描かれ、左に進むにつれ時間や空間は変化していく。現在のアニメーションのさきがけとも言える斬新な手法を用いる。

第一巻 山崎長者(飛倉)の巻
ある長者の家の倉が突然動き出すシーンから始まる。金色の鉢が大きな倉を持ち上げようとしている。倉は宙に浮き空高く舞い上がる。それを見上げて驚く人々。庶民たちの仕草や表情が生き生きと描かれているのもこの絵巻の特徴の一つだ。長者一行は飛び去る倉を慌てて追いかける。やがて深い信貴の山々へと分け入り、辿り着いたのは山の頂にある小さな寺だった。ここで主人公の命蓮上人が登場する。命蓮は法力で信貴山から鉢を飛ばし托鉢を行っていたのだった。長者は鉢を返さず倉の中に閉じ込めていた。米蔵を返して欲しいと懇願する長者に、命蓮は倉は返せないが米は返そうと言う。命蓮が米1俵を金色の鉢に乗せるよう言うと、残り数百の俵が舞い上がり雁の群れが続くように長者の屋敷へ向かった。この場面には信貴山縁起の卓抜した表現技法が見られる。飛んでいく俵を画面の上で切り取る構図がかえって大量の俵の存在を巧みに感じさせる空間表現だ。

第二巻 縁起加持の巻
病気になった醍醐天皇を命蓮が癒すという巻で、数多の僧が加持祈祷を行うがいっこうに効き目がない。妙蓮にも依頼があり、勅旨は妙蓮に宮中に赴くよう懇願するが、命蓮は山を降りようとはしない。その代わり使者を使わせて病気を治すと約束する。数日後、帝の夢枕にきらきらと金色に輝く童子が現われる。仏法を守るため剣で編んだ鎧をまとった剣の護法童子だ。童子が現われた途端、帝の病気はすっかり癒えてしまう。この宮中の場面から先、左に目を移すと絵巻の時間進行の法則とは異なる表現が見られる。それは信貴山から宮中に向かい天駆ける童子の姿だ。激しく回転する法輪、風に靡いて鳴る剣、”時間逆行という手法で躍動感溢れる童子の登場を強調している。現代の映画の手法”フラッシュバック”にも通ずる画面構成になっている。

第三巻 尼公(あまぎみ)の巻
一、二巻の不思議な霊力の世界から一転して、情感溢れる姉と弟との再会の物語が描かれている。尼公は幼い頃生き別れになった弟命連に一目会いたいと信濃国から旅を続けてきた。弟を知っているか里の人々に聞いてまわる。そしてやって来たのはかつて弟が受戒したという東大寺だ。大仏殿に参篭し尼公は命蓮と再び会えるよう祈る。この場面でもユニークな表現技法が見られる。一つの画面に尼公の異なる4つの姿が描かれている。”異時同図法”という技法だ。大仏に手を合わせる尼公、疲れ果てて眠り込んでしまう尼公、同じ場面で時間の経過を追って尼公を描き、その祈りの長さ深さが表現されている。まどろむ尼公は、弟は信貴山にいるとお告げを受ける。旅を続ける尼公。やがて緑深い信貴の山々が姿を現す。訪問を告げる尼公に扉を開けて迎える命蓮。姉と弟の感動的な再会の場面だ。その後の二人の情愛豊かなやり取りも描かれる。この場面でも異時同図法が使われている。信濃から携えてきた衣を優しく手渡す姉、経文を読んで聞かせる弟、情景を積み重ねることで二人が信貴山で送る日々の静かな喜びが伝わってくる。姉弟が睦まじく余生を暮らすこの場面を結びに物語りは幕を閉じる。

国宝信貴山縁起、巧みな技法で描かれた奇跡と情愛の物語は、800年の時を超え今なお新鮮な驚きと感動を与えてくれる。
by nekomama44 | 2004-12-27 23:22 | 美術